「子ども期の逆境体験」将来に影響 心身の病や希死念慮 高まるリスク 集会開き提言

子どものときに受けた虐待、家族の精神疾患やDVといった経験が重なるほど、大人になって心身の健康リスクが高くなる——。こうした実態を知ってもらい、逆境を生き延びた人たちが孤立せず、適切な支援が広がるよう、当事者や研究者、支援団体が10月27日、参議院議員会館で集会を開き、提言を行った。
「親の信仰を絶対とする家庭で、体罰や感情的な抑圧を受けた。複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)や精神疾患に苦しんでいる」「自分が『ACEサバイバー』だと知ったのは最近のこと。どこに相談したらいいかわからなかった」「いま生きているのは運のおかげ」と『ACEサバイバー』同士では当たり前のように聞かれる。これからはひとりでも多く、運頼みではなく政治や制度の力で救われてほしい」。6人の当事者が集会で、経験や思いを打ち明けた。
虐待やネグレクトなど、18歳までの子どもにとってトラウマとなりうる体験を「子ども期の逆境体験(ACE=Adverse Childhood Experiences)」と呼ぶ。
ACEは身体的・心理的・性的虐待やネグレクト、家族の精神疾患や自殺未遂など主に10項目が含まれることもある。
全くACEを経験していない人に比べ、経験した数が多いほど、大人になってから心身の健康上のリスクが高まり、失業や貧困、社会的孤立などの困難に直面しやすいことが明らかになっている。

1990年代の米国の研究では、ACEを四つ以上経験した人は、経験がない人に比べて、がんが1・9倍、アルコール依存が7・4倍、希死念慮が12・2倍リスクがあるという結果が出た。
国内では、2021年に京都大が行った調査(2万人が回答)で、一つ以上経験したACEサバイバが38・4%いることが明らかになった。
ACE研究を行う大阪大学院の三谷はるよ准教授によると、国内の複数の調査から、四つ以上あてはまる特にリスクの高いACEサバイバーは、国内におよそ440万人いると推計される。
三谷さんは「自己責任や努力不足で片付けられない問題で、人権の問題として考えてほしい」と訴える。
また、当事者には「あなたの生きづらさはあなたのせいではない」と知ってほしいという。
ACEサバイバーが抱えるトラウマや困難については、理解や支援が足りていないのが現状だ。
「生きづらさ あなたのせいではない」理解や支援を
自身もACEサバイバーの丘咲つぐみさんが代表理事を務め、集会を主催した一般社団法人Onaraが当事者を対象に今年行った調査(851人が回答)では、周りの人の無理解や偏見などで再び傷ついた「二次被害」の経験が「ある」と答えた人が64・3%いた。
経験したのは「医療機関」が57.3%、「福祉機関」「行政機関「教育機関」もそれぞれ4割前後(複数回答)だった。内容は「被害内容を軽視される」「話を信じてもらえない・否定される」「あなたに責任があると示唆された」などが多かった。
調査結果を踏まえ、丘咲さんは行政や医療、福祉の現場で、誰もがトラウマ経験があるかもしれないという視点に立つ「トラウマインフォームドケア」の研修の義務化を提言した。
このほか、ACEサバイバーの実態を把握するための公的な全国調査の実施や、どこに相談していいかわからないACEサバイバーのため、専用の総合相談窓口の設置を求めた。
丘咲さんは何人もの当事者が自ら命を絶つという現実を目の当たりにしてきたという。「虐待や逆境体験は子ども時代で終わるものではなく、大人になっても影響が続くことがある。生き延びた子どもたちが自ら命を捨てていく選択をしなければいけない現状を変えていきたい」と話す。(川野由起)
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2025年11月8日(土)朝日新聞朝刊くらし面
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