子供に無償でメガネを 経済的に苦しい家庭へ 民間が独自支援

子どものメガネ購入を支援します—。経済的に困窮する家庭に無償でメガネを届ける取り組みが広がっている。公的支援が手薄な中、民間で独自の支援が動き始めた。(中塚久美子)

「見えにくい」言い出せず

 「見えやすくなった、とうれしそうです」。兵庫県明石市の女性(53)は言う。中学1年の長男(12)が2学期に新しいメガネを手にした。
小学1年で弱視と診断された。弱視や斜視などを治療するためにつける「治療用メガネ」は、保険が適用され、自治体の医療費助成を利用できる。ただ、保険適用は9歳未満に限られる。女性は7年前に離婚。
 補助なしでメガネを買うのは厳しい。長男の視力は左目が0.2。中学でテニス部に入り、勉強にも運動にも適したメガネを、と考えていたとき、自身が参加するひとり親家庭の支援団体が関わっている取り組みを知った。
同県西宮市の女性(53)は大学1年の長女(19)が中学1年の時、視力が0.1以下だと知った。「実は小学生の時から黒板が見えにくかった」と長女は言った。離婚し、経済的に不安定だった。一般的な近視用などのメガネの購入は、就学援助で補助する自治体もあるが、一部の自治体に限られる。「視力が悪いと言いづらい環境にしたのは私だ」と女性は自分を責めた。今回高校卒業前にメガネ支援の呼びかけに応じた。
 支援の対象は、この取り組みに賛同する民間団体の活動に親が参加するなどし、団体が支援の必要性を把握している高校生までの子ども。1人上限2万円で、メガネの全額。国チェーン・パリミキ(本社・東京)と各地域の協力企業が50%ずつ出す。メガネは同チェーン店で買う。

服のように「お下がり」困難

 取り組みは1月から本格的に始まった。北関東(水戸市など)のほか、愛知、香川、徳島の各県、京都、北九州、福岡の各市で展開。10月から東京都と山口県でも始める。
兵庫県では産業用ポンプを製造・販売する兵神装備(同・神戸市)が協力企業となり、子どもや女性を支援する県内の4団体が定期的な関わりを持つ世帯に声をかける。NPO法人こどもサポートステーション・たねとしずく(西宮市)には8月までに16人が申し込んだ。大和陽子代表理事は「メガネは服のようにお下がりはできない。我慢してきた子にとって、丁寧にモノを選び、自分が思い描く自分に近づける経験になっている」と話す。
 支援を発案したのは、一般社団法人ハーシャルビジネスバンク(神戸市)の東信吾さん(51)。20年以上金融機関に勤め、「プライベートバンカー」として富裕層の資産運用を担ってきた。大塚製薬創業家の大塚芳紘さん(チャイルドライフサポートとくしま理事長)と会食中、「経済的事情でメガネが買えない子どもたちがいると聞いた。サポートできないか」と相談された。銀行勤務時代の元同僚がパリミキに勤めていることを思い出し、パリミキホールディングスの多根幹雄会長と大塚さんをつないだ。視力の問題は学業成績や自尊心に直結すると考える。パリミキと大塚さんが資金を出し合い、23年7月以降、徳島県内の支援団体を通じてメガネ支援を始めた。「富裕層が自分の幸せをお金以外に求めたときに、選択肢の一つに寄付を採用してほしい」と東さん。メガネ支援に無報酬で取り組んでいるという。

2025年9月28日(日)朝日新聞朝刊社会面

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