2025/09/17 日刊スポーツ新聞社会面「犬とヒトの歯周病の違い」歯学博士 照山裕子の口福のヒント

人間は長い時間をかけて、ゆっくりと歯周病が進行していきます。かたや犬は、プラーク(歯垢=しこう)がすぐに歯石になりやすく、歯ぐきが腫れて一気に進行します。
歯ぐきの毛細血管が破壊し、歯周病菌や、それに付随する有害物質が血流にのって全身を巡る危険性は、ヒト医療ではもはや常識になっています。犬の場合も同様に、こうしたメカニズムが働いている可能性が明らかになりつつあります。感染性心内膜炎や、僧帽弁閉鎖不全症の病変部から Porphyromonas gulae(犬特有の歯周病菌)が検出された報告があったほか、ヒト同様に慢性腎臓病との関わりも示唆されています。
犬の場合は食物をかみちぎり咀嚼(そしゃく)せずに丸のみしてしまう習性から、剥がれたプラークや歯石が一緒におなかの中に入っている可能性も否定できません。
歯周病を引き起こす細菌は、バイオフィルム(ぬるぬるした集合体)という要塞(ようさい)の中に生息しています。プラークや歯石もバイオフィルムから成り立っているので、体にとって有害な細菌が随時に胃腸へと運ばれてしまうリスクも考えなくてはなりません。こうしたさまざまな環境を鑑みると、ペットにとっての歯磨きはまさに「全身の健康を守るお薬」と言えるのではないでしょうか。

私たち人間は定期健診に通い、プロの手によるクリーニングや歯磨き指導を受けることができます。かたや犬の場合、全身麻酔での歯石除去や抜歯が基本になります。食欲にムラがある、歯ごたえのあるものを嫌がるようになったなどの変化は何かのサインです。早めにかかりつけ医に相談するのが賢明といえます。
ヒト医療と異なり、ペットの口腔(こうくう)内を触れるのは獣医師の先生のみです。23年に国家資格化された愛玩動物看護師は、獣医師の指示の下で補助的な役割を果たします。歯磨きの相談に寄り添ってくれる味方を見つけることも、飼い主の大事な責務です。

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