2025/09/14 朝日新聞朝刊文化面 地図を広げて「余裕ができた かみしめる日常」 香取 慎吾
ソロツアーやファン向けのイベントで全国を回ることが多かったのですが、訪れる先での景色や食べものを、昔よりもちゃんと味わえるようになったな、ということに気づきました。グループで活動していた時は、黒いカーテンで窓を覆った車で、ライブ会場やホテル、家を移動していた。閉ざされた空間で過ごすことが多かったんです。冗談のようだれど、ライブの第一声で「大阪のみんな~、こんにちは~!」と言ったら福岡だった、ということもあった。今はとてもオープンになって、空港でもラウンジでゆっくりしたり、お土産売り場をのぞいたりしています。
初めてのソロツアーで、新鮮だったことがあるんです。食事やおやつが並ぶケータリングの部屋があるのだけど、スタッフやバンドメンバーとは休憩時間がずれていて、1人になることが多かった。グループ時代も5人が同時に食べることはめったになかったけど、個々でルーティンをこなしながらタイミングが合えば、「それ、おいしそうだよねー」とか声をかけ合っていた。今回、それが寂しくもあり、ちょっと興味深くもあり。さすがにこれでいいのかな?と思って、ゲストやスタップにまじれる時は、一緒に食べました。そうしたら心地よかったんですよね。海外での過ごし方も、この数年で変わってきたように思います。色々吸収しようという気持ちに変わりはないけれど、美術館をまわるより、カフェでお茶しながら人の行き交う景色をながめることが増えた。昔なら、そんな時間はもったいないと思っていたのに。
帰国した時も、成田空港から東京に向かう高速から空をながめて、次はいつ行けるんだろう?と寂しくなることは、今はもう、まったくない。帰ったら、吸収してきたものを早く仕事に生かしたくてたまらなくなる。経験値があがって、余裕ができたんでしょうね。世界は近くなり、より深くものごとをかみしめられるようになった。新たな刺激を得ることが増えました。(聞き手・松沢奈々子)