小柄な白バイ隊員 発信 154センチ高橋巡査長 身長制限撤廃で夢実現

 白バイ隊員になりたいけれど背が足りない。そんな「身長の壁」が取り払われた。警視庁は昨年6月、多様な人材確保のため白バイ隊員の身長基準を撤廃し、以降、それまでより小柄な11人の隊員が誕生した。その中でも身長154.6センチと最も小柄な大森署交通課の高橋南巡査長(26)は「夢をあきらめずに全力でやって良かった」と喜び、後輩たちも続くよう期待した。(今坂直輝)

 「物心ついたときから街を颯爽(さっそう)と走る白バイ隊員に憧れた。隊員になるために警察官になろうと思った」。高橋さんは初々しさが残る制服姿で、幼い日の思い出を語る。
 東京都江戸川区出身。一度は警視庁の採用試験に落ちたものの、2回目で合格して2022年2月に警察学校に入校。同年8月から同署に配属され、交番勤務を始めた。
 交番の自転車で交通違反のバイクを追いかけたとき、白バイ隊員が駆けつけて取り締まる姿を目の当たりにした。「機動力があって、間近に見るとやっぱりかっこいい」。憧れがより強くなった。
だが、小柄な高橋さんの前には壁があった。白バイには1100ccと1300ccの大型バイクが使われる。このため当時、白バイ隊員には男性が165センチ以上、女性が160センチ以上という身長の基準があった。取り締まり実績の多さなどで、基準以下の身長での入隊例もあったが、ごく少数に限られていた。

 高橋さんは基準を乗り越えられるだけの実力をつけようと、基礎訓練を始めた。署の駐車場で白バイの置き方一つでバランスが崩れる。白バイを借り、最初は倒れたバイクを起こしたり、停車時に姿勢を保ったりする訓練。だが白バイは約300キロと重く、車高も高い。停車時は足こすことさえできず、「心が折れそうなこともあった」と振り返る。それでも筋トレに努め、先輩隊員らの手助けを受けながら、本動作を体にたたき込んだ。

 すると、昨年6月、追い風が吹いた。警視庁が人材確保のため採用基準を変更したのに併せ、身長基準が撤廃されたのだ。「チャンスが来た」と思った。
 白バイ隊員になるための講習には通常150人前後の希望者が集まり、体力検査や書類選考を通過した30人程度。依然として狭き門だが、高橋さんは選考を通過して受講し、見事合格した。 
現在は署の先輩隊員に同行して経験を積む。「実際の道路は生き物のように常に状況が変化する。それに対応しながら、模範となる運転をしなければいけない」と緊張感が解けない。
 先輩隊員の比奈地洋之警部補は「違反者にも明るく丁寧に接するので、相手も落ち着いて話を聞いてくれる」と評価する。
10月下旬に来日したトランプ米大統領が羽田空港から都心にヘリコプターで移動する際には、急きょ陸路に変更された場合に備え、高橋さんも白バイで出動した。
 次の夢は、署の前の道路がコースになっている箱根駅伝の先導。支えてくれた人に成長した姿を届けられる日を思い描いている。

2025年11月5日(水)東京新聞朝刊社会面

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