時短勤務「取れない」地方公務員 子と向き合う時間ほしい 2025年10月30日(木)東京新聞朝刊暮らし面生活

 10月、育児・介護休業法の改正に伴い、地方公務員の短時間勤務制度「部分休業」も拡充された。ただ、自治体が制度の利用を認めないケースもあり、仕事と子育ての両立に苦労する職員も少なくない。業明けに制度の利用が認められなかった中部地方の公務員女性は「子どもたちと向き合いたいのに、毎日、最低限の家事、育児をこなす時間すらない」と嘆く。(出口有紀)

「ママー、あそこにくじらぐも!」。今夏のよく晴れた日の夕方、学童保育に小学生の長男を迎えに行き、帰る途中、呼びかけられた。「分かったから、早く車に乗って」。国語で習った物語に出てくるクジラの形をした雲に似ているのかなと思ったが、運転席からは雲の端しか見えなかった。一緒にその瞬間をとらえられず、今でも後悔する。
女性が家路を急ぐのは、1歳の子どもの育休を経て職場復帰した後、勤める市から、1日2時間の範囲内で、勤務時間を短縮する部分休業の取得が認められなかったからだ。子どもたちと過ごす時間を確保したいという女性の思いとは裏腹に、市からは、子の保育園の預かり時間を延長して対応するよう迫られた。

市の姿勢「時代錯誤」

 同法改正で未就学児を持つ従業員の両立支援を強化するため、企業には、時短勤務など複数の制度導入を義務付ける。関連し、部分休業にも年10日の範囲内で取得する選択肢が設けられた。一方、今ある制度を使わせない市の姿勢は「時代錯誤に思える」と女性は憤る。
時間外保育は利用せず、現在は、市外で働く夫が退勤時間を繰り上げ、女性は有給休暇を時間単位で使って帰宅を早めている。互いの両親は遠方に住むなどして頼れない。

家事、育児 余力なく

 帰宅後、女性はトイレに行く間もなく台所に立ち、子どもたちの夕食や入浴の準備。次の日の持ち物や宿題を確認するだけで精いっぱいで、平日は子どもとゆっくり話す時間もない。時短勤務ができれば、朝に家事を片付け、夕方は子どもを早く迎えに行って一緒に散歩したり、習い事に連れて行ったりしたい。女性は「生活に余力がなく、何も子どもたちにしてやれていない」と焦る。
 子の将来を考えれば、フルタイムの仕事は辞められない。女性は「子どもたちが大きくなったら、仕事に打ち込み、子育てに苦労する職員をサポートしたい。そのためにも、市には育児などで生活の状況が変わった時に、仕事と生活の比重を切り替えられる制度を整えてほしい」と求める。

制度運用 自治体ごと

■保育延長を■祖父母が近居…取得断るケースも

 地方公務員の部分休業は「地方公務員育児休業法」で定められ、各自治体は同法をもとに各制度を条例などで規定、運用する。「職員に寄り添った運用ができているかは自治体による。制度がある以上、有効に活用してほしい」と総務省の担当者は話す。
 公務員らでつくる自治労連愛知県本部(名古屋市)は今年、同県を含む県内55の自治体で、時短勤務制度の取得状況を調査。育休者が一定数いるのに時短勤務者が極端に少ない自治体、ゼロの自治体もあった。
 時間外保育の利用や祖父母の近居を理由に取得できないケースも。子どもの世話が行き届かず悩む職員の声も届く。副執行委員長の長坂圭造さん(62)は「各職場の業務量の見直しと代替要員の確保を行わずに、取得させないよう動く自治体もある。制度があるのに、利用したい人が使えないのはおかしい」と訴える。

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