男性育休「育児は長期」の視点を 国立成育医療研究センター研究所 政策科学研究部長 竹原健二さんに聞く 2025年10月18日(土)朝日新聞朝刊くらしめん少子化を考える
父親向けの育児休業制度「産後パパ育休」が始まり、10月で3年になった。男性育休は、政府の少子化対策でも重要視されている。取得率は年々上がっているが、どう評価するべきなのか。男性の育児支援に詳しい国立成育医療研究センター研究所の竹原健二・政策科学研究部長に聞いた。
──育休を取る男性が増えてきました。
2024年度の男性の育休取得率は40・5%で、10年で約15倍になりました。わずか10年で社会が変わった、政府は男性育休の推進に成功した、と評価できます。
一方で、育児に参加しない「とるだけ育休」という言葉も生まれています。男性に育休を促すのであれば、同時に社会の支援が必要です。 取得前に男性もきちんと家事育児のスキルを身につけられるような家庭・社会による機会を増やし、育休をより有意義な時間にするためのしくみが必要でしょう。
そのうえで、「なんのために育休を取得するのか」を問い直さないといけない段階に来ていると考えます。
──なんのためでしょうか?
それを考える際に、まず「何歳までが育児なのか?」という問いがあります。育児支援といったときに、だいたい就学前ぐらいまでと考えられることが多いように思います。
でも実際には、子どもが小学校に進学すると同時に仕事との両立が厳しくなる「小1の壁」に悩む親もいます。育児と仕事と生活を成立させることや、思春期の親子関係など、課題は就学後にも多くあります。
長期的な視点でとらえれば、男性の育休期間は一瞬です。復職後に長時間労働に戻ってしまう例は珍しくありません。
取得増でも 夫婦協力し続けるしくみ課題
──何が必要でしょうか?
いまの男性育休は、育休のときだけワーク・ライフ・バランスの「ライフ」に全振りしている状態です。
それを薄く伸ばすような考え方があってもよいはずです。
例えば、育児期間中の親は週2〜3回は定時で帰れることを当たり前にする。政府がそうしたしくみを企業に促すことを検討してもよいと思います。共働き世帯では女性が時短制度などを活用して、「ライフ」の割合を大きくして対応している、という偏りのある現状があります。
いくら取得率が上がっても、その後も継続して夫婦が協力して育児ができる環境を整えなければ、子育てしやすい社会の実現、その結果としての実効性も少子化対策としての実効性も薄れるのではないでしょうか。
──育児は長期にわたるという視点が必要ということですね。
子どもが生まれた直後は女性の産後うつのリスクも高く、もっとも大変な時期です。男性も育休をとり、家庭のなかで1人増員するのは合理的です。一方で、それは「マイナスが大きいところをケアする」という「治療的」な考え方です。
「育児負担をどうカバーするか」という議論に集約しがちですが、本当は育児の楽しさもたくさんあるはずで、それがもっと発信されてもよいと考えます。そうなれば将来、育児をしてみたいと考える若い人も増えるのではないでしょうか。
皆が家族大切にできる社会 めざす一環
──ほかに課題はありますか?
育休をとる人が増えれば、職場の同僚の負担は増します。「応援手当」の支給を始めている企業もありますが、どうカバーするかは真剣に考えていく必要があるでしょう。
育休前の引き継ぎの負担もよく聞きます。例えば育休中も少しでも仕事につながれたほうが、同僚の負担や引き継ぎ作業も減り、仕事から取り残されている不安も減るかもしれません。
どんな育休が望ましいのか、柔軟に考え続けていくことが大切だと思います。
また、育休だけを特別視することがよいと思いません。子育てする人とそうでない人の分断にもつながります。そもそも「育児・介護休業法」です。育児であれ介護であれ、自分の家族や大事な人を大切にできる社会をめざす。その一環として育休がある、という考え方で制度設計していくほうが、みんなやさしくなれるように思います。
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(聞き手=編集委員・武田耕太)
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