オトナになった女子たちへ 益田ミリ 「中年も えーなー」2025年10月11日(土)朝日新聞朝刊くらし面

 中年に飽きた。
 中年は若者に見下される。面と向かって見下されることもあれば、悪気なく見下されることもある。そして、案外、後者のほうが後をひく。自分もそうしてきたのだろうから仕方がない。
中年はがんばらなくていいカフェが好きだ。スタバには、ギリ行ける。ただし、ちょっと張り切った感じで行く。中年も最新スイーツが食べたいときがある。けれども、そういう店は中年を待っていない。
 中年は若者を感心する。若さを感心し、スマホを使いこなしていることを感心する。若者は新しいことを教えてくれる。それに甘んじて、中年は感心する行為で間を埋めがちだ。若者は感心されるのに飽きているに違いない。かつて若者だったから、その気持ちがわかる。わかるけれど自慢する中年より感心する中年のほうがマシではないか? 若者にはできない悩む大変な時間を生きているのだ。
 中年はTシャツが似合わない。似合っている中年はそれ相応の努力をしている中年だ。しかし、似合わない服を着てはならない法律はない。だから着ている。Tシャツが似合わないようになったな、と思いながら着ている。若さを羨ましがることを若者ごと理解してしまう中年の哀しみ。ほしいなどというのは中年のわがまである。

 中年友達とカラオケにいくと、毎回みんな同じ曲を歌う。突然、最近の若者の曲を歌う者がいれば、「がんばって覚えたんだな……」という労(ねぎら)いの手拍子ににじむ。自分たちが若者だった頃に聴いていた曲は様々な感情を運んでくる。高校の渡り廊下、バイト帰りの堤防、会社の初めての飲み会。薄れても確かにあった日々。
 中年に、飽きた。飽きたからといって、悲惨なわけでもない。イヤなことを忘れられるのが早くなった。すばらしい新機能が搭載されたぞ。今日、スタバから見た夕日がきれいだった。生きているってえーなーと中年のわたしは思った。

■17日発売の益田ミリさんの新刊漫画『中年に飽きた夜は』原画展山陽堂書店(東京都港区北青山3の5の22)で、17日〜11月15日。日祝休み。

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