10代の相談室 ソーシャルワーカー 鴻巣麻里香 「Q、勉強から逃げ出したい」2025年10月8日(水)東京新聞朝刊暮らし面【子育て】
Q、学校が終わると深夜まで塾、家でも課題をやるので寝るのは日付が変わってからになります。毎日とても疲れています。試験の成績を落とすとスマホを取り上げられ、外出もさせてもらえなくなるので頑張らないといけないのに、逃げ出したい気持ちでいっぱいです。親は「あなたのためよ」と言います。お金をたくさん出してくれてるし、逃げたくなる私が悪いんでしょうか。(中学3年、女子)
A、今は無理でも将来の選択肢に
「権利」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。権利、あるいは人権とは、人が人らしく、私たちが私たちらしく生きるために「していいこと」や「してほしいこと」、「されてはいけないこと」は、守られていて当たり前に持てるものです。全ての人間が、生きている限り持っているものです。
しかし、社会的に弱い立場に置かれた人ほど権利が守られなくなってしまうことがあります。みなさんのような「子ども」もそう。子どもたちの権利がちゃんと守られるよう、各国が取り組まなければならない決まりが定められました。その決まりを「子どもの権利条約」と言います。
教育のためにちゃんとお金をかけ、応援してくれる大人は、その権利を守ってくれていると言えます。ですが、権利の中には「休む権利」や「遊ぶ権利」もあります。眠る時間、ぼーっとする時間、好きなことをする時間、それらも私たちの健康を守るために必要不可欠だからです。
相談者さんの親は「あなたのため」と言いますが、それならば、真っ先にあなたの意見を聞くでしょう。すぐに答えられない時は、待ったり、一緒に考えてくれたりするでしょう。子どもが意見を言う権利は、意見表明権として守られています。そのプロセスを省いた「あなたのため」は、大抵の場合、親自身のためです。
暴力を受けていない、ごはんも食べさせてもらえる、だけれど苦しくて逃げ出したい。そんな時は、あなたの権利が侵害されているかもしれません。
権利を侵害する行為は、子どもとして生きる大切な時間を奪う、わかりづらい暴力(虐待)のかたちです。中でも子どもの休む時間や遊ぶ時間を奪って勉強や受験を強制する、成績が下がると罰を与えるなどは「教育虐待」と呼ばれることがあります。
「あなたのため」のひと言は、権利が侵害されているサインの一つです。その時は「何が私のためかは一緒に考えて決めたい」と伝えてみましょう。その願いを無視する親は、権利の侵害を続けてくるはずです。今すぐは無理でも親から「離れる」「逃げる」も将来の選択肢にいれましょう。
大人のみなさんへ
子どもは、あなたとは違う人格を持っています。親が子どもの幸せを願うことは当たり前ですが、自分の成功は自分だけのもので、子どもに当てはまるとは限りません。失敗も同様です。何よりも子どもは親の「うまくいかなかったこと」をリカバリーするための道具ではありません。
親が不安に陥っている時に、子どもの場合、「あなたのため」と言う時は、だいたい親自身のためです。きちんと「私の不安」と向き合い、対処しましょう。そして子どもをちゃんと休ませているか、秘密を暴いていないか、意見を聞いているか、自分の行動を振り返ってみてください。それでも不安に押しつぶされそうになったら、目の前の子どもの幸せや健康、願いに集中しましょう。
鴻巣麻里香(こうのす・まりか) 精神保健福祉士。ソーシャルワーカーとして中高生を支える。
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