踏み間違い事故 防ぐには 同時に複数の動作 加齢で困難に

 自動車のアクセルとブレーキペダルの踏み間違いによる交通事故が、高齢者を中心に後を絶たない。「交通事故総合分析センター」(東京)によると、2024年は2853件発生し、74人が亡くなった。予防策はあるのか。

 分析センターによると、踏み間違いによる事故の件数自体は減っており、15年の5830件(死者数60人)に比べ、24年は半減した。一方で、過失の割合が大きい第1当事者は、65歳以上の割合が3割強から5割強と増加傾向にある。
12〜16年の事故データで事故が発生しやすい場所を分析すると、高齢者の事故は店舗の駐車場やコインパーキングなど道路以外でも多発。また、発進や直進時の割合が高かった。

「不測の状況減らす条件作りを」

 滋賀医科大学の一杉正仁教授(=社会医学)は「駐車場では、周囲を見渡し、速度調整しながら空きスペースや車、歩行者、障害物を確認するなど、同時に複数の動作をこなしている。加齢でこの複数の動作をこなす能力が低下する」と話す。加齢で足の筋力や股関節の柔軟性も低下する。周囲を見渡すなどして右に体を向けると、連動して知らぬ間に足がアクセルにかかってしまい、ブレーキと思い込みで踏み込んだら実はアクセル、という可能性もあるという。
 一杉教授は、「自分の能力の限界を知ることが重要」と指摘。予防策として、ブレーキの手前にかかとを置く▽駐車場などではオートマチック(AT)車のクリープ現象の活用▽運動で筋力や柔軟性の低下防止――などを挙げる。
 戸田中央メディカルケアグループの渡辺修特別顧問(リハビリテーション医学)によると、運転は複数の動作をこなすほか、複数の情報から一つを抽出し集中する▽他に注意を切り替える――などの能力が必要となる。運転中は脳は活発に動き、血流が増える。加齢により、脳の血流が低下し、特に複数のことを同時に行う能力が衰えるという。
 渡辺特別顧問は、運転は晴れの日や自宅から3キロ以内、見晴らしのいい道路の通行に限る、という「予期せぬ状況が発生しにくい条件作りが有効」と指摘。「加齢で注意力が衰えるのは生理的に仕方ない。ゆとりを持った運転で低下した能力を補うことが重要」と話す。能力や筋力などの低下には個人差がある。日本自動車連盟(JAF)が無料公開する「エイジド・ドライバー総合応援サイト」の認知機能簡易チェックや各種トレーニングなどで、自分の能力を見つめ直すこともできる。(酒井祥宏)

75歳以上のドライバー 10年前の1.8倍に

 運転免許証の保有者数は減少傾向にあるが、高齢ドライバーの数は増えている。警察庁によると、75歳以上のドライバーは昨年末時点で789万7762人おり、10年前から1.8倍に増加。免許証保有者の1割を占める。75歳以上のドライバーによる死亡事故も目立つ。昨年は410件あり、4年連続で増加。19年には、東京・池袋で男性(当時87)の車が暴走し、母子2人を死亡させる事故が起きた。免許証の自主返納は進んでいる。
 池袋暴走事故が起きた19年は前年から6万件近く増え、35万428件だった。ただ近年は鈍化し、昨年は26万4916件だった。
国は対策を強化している。国産の新型車への自動ブレーキ取り付けを21年に義務化。22年からは一定の違反歴がある75歳以上を対象に、免許更新時の運転技能検査を設けた。
 自動車や部品メーカーは踏み間違いによる加速抑制装置を開発。国は28年9月以降の新型AT車(輸入車は翌年9月)から装置を義務付けた。(板倉大地)

2025年9月29日(月)朝日新聞朝刊社会面

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